
ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)は、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、情報革命を通じた社会貢献を推進してきました。同社は早くからAIの可能性に着目し、AI人材育成にも注力。「G検定」「E資格」(JDLA)の資格取得を推奨し、多くの合格者を生み出しています。
今回は、人材開発部 部長である岩月 優氏に、ソフトバンクならではのAI人材育成の取り組みについて伺いました。
プロフィール

ソフトバンク株式会社 人事総務本部 採用・人材開発統括部 人材開発部 部長
G検定 2023 #5合格
岩月 優氏
事業戦略と連動し、トップのメッセージが浸透する組織

――貴社のAI人材育成の取り組みについて教えてください。
岩月氏:社内教育は事業戦略を実現する人材を育成するためにあります。近年、孫(ソフトバンクグループ会長兼社長)がAIに注力する戦略を掲げており、我々はそのビジョンを実現できる社員の育成を担っています。例えば、2019年にはデジタル技術に特化した「ソフトバンク・ユニバーシティ テック(SBU Tech)」、2021年にはAI活用人材を増やす「AI Campus」を設立しました。弊社は時代を先取りし、先を行くことを目指しています。
経営陣がいち早く情報革命の方向性を捉え、それを組織に伝えるのが当社の強みです。2019年に「Beyond Carrier」という通信会社からの脱却を目指すメッセージが出た際は、新しいスキル習得の必要性からSBU Techを立ち上げました。
我々人事のミッションは、全社員がDXやAIについて共通言語で語れるレベルに知識を引き上げることです。この「底上げ」がビジネス成功の鍵だと考えています。文系・理系は関係ありません。むしろ文系社員にこそAIリテラシーは不可欠です。
当社ではトップからの「ここで勝負する」というメッセージが明確で、社員大会や月1回の朝礼などを通じて浸透します。経営戦略にどれだけ貢献できたかが評価されるため、社員の学習意欲も高まります。会社の方針と学びを連携させることが重要と考えており、AIに関しては良い循環が生まれています。
学習効果を高める鍵は“手挙げ”と明確な目標設定

――貴社は早い時期からG検定とE資格を推奨してきました。その背景にはどういうことがあったのでしょうか?
岩月氏:AIの基礎力を高め共通言語化するために、目標設定が有効だと考えました。体系的に学べ、成果が目に見える形で現れるものとして、ソフトバンクグループ株式会社の社外取締役である松尾豊先生が監修されているG検定・E資格が最適でした。合格者への支援金制度も設け、応募者増加につながっています。
私たちが重視するのは、「やらされ感」のない学習です。本人が「学びたい」と“手挙げ”でコミットすることで学習効果は最大化されます。その動機付けとして、資格という目に見えるゴールが有効だと判断したのが背景です。
資格取得は「きっかけ」自己アップデートの習慣化を促す

――資格取得者への支援やキャリアへの影響は?
岩月氏:合格者には支援金(G検定2万円、E資格4万円)を支給し、学習教材や認定プログラムを提供します。また、学習進捗に合わせた声かけや、受講者が集まる機会を設けるなど、孤独にならず継続できるようフォローしますが、基本は“手挙げ”した本人の責任で頑張ってもらうスタンスです。受験費用も自己負担で、合格後に会社が負担します。
資格取得が直接評価や異動に繋がるわけではありません。しかし、社内公募制度などで部署が選考を行う際には参考にはなります。「G検定を取りました」と言えば、学習へのコミットメントが明確に伝わりますので。
――資格取得者数の目標はありますか?
岩月氏:当初、2024年度末までに全社員の10%を目標としていましたが、大幅に、前倒しで達成しました。現在は12~13%です。マーケティング理論で言う普及率20%を超えると組織に変化が起きると考え、次の目標としています。
――資格取得者に求める人物像は?
岩月氏:G検定・E資格に限らず、事業戦略に合わせて自身をアップデートし続ける人材です。資格取得をきっかけに、学びの習慣化の定着を期待しています。会社が成長するためには、社員一人ひとりが変化に対応し、再現性を持って貢献できることが理想です。
昨今言われる「キャリア自律」(社員自身がオーナーシップを持って能力開発し、変化を乗り越える力を持つこと)が、会社を強くすると信じています。私たちの役割は、旬な学びをタイムリーに届けることです。
学びを活かすという点においても、社内イベントも開催しており、例えば生成AI活用コンテストでは、優れたアイデアが事業化され、提案者の新たなポジションが生まれることもあります。AIの基礎知識がなければ提案もできませんから、資格取得が間接的に役立つ場面もあるでしょう。ただし、資格保有者を集めるのではなく、あくまで事業に貢献できる人材を求め、必要に応じて資格取得を支援するという考え方です。手段が目的化しないよう注意しています。
「挑戦する人にチャンスを」人事戦略と事業戦略の連動が生む風土

――資格取得者が増えたことによる社内への影響は?
岩月氏:管理職層の取得者が増え、意思決定層のAIリテラシーが向上したことが大きいですね。また他社からAI人材育成に関する問い合わせが増えています。
――他社にアドバイスを求められたらどんな風に答えられますか?
岩月氏:最も重要なのは「何のためにやるか」を明確にし、事業戦略と人材育成戦略をしっかり連動させることだと申し上げたいです。これがなければ社員に「なぜ学ぶ必要があるのか」が伝わりません。その上で、学習意欲を高める工夫、例えば明確なゴールと期日設定が有効です。オンライン学習は「いつでもできる」が故に後回しにされがちなので、期限を切ることが重要です。
また、動機づけや学習時間の捻出を、強制感なくどうサポートするかが鍵となります。
――“手挙げ”を促すのは、御社の風土によるところが大きいのでは?
岩月氏:「挑戦する人にチャンスを」が人事制度の基本コンセプトであり、異動や評価、研修に“手挙げ”や挑戦を重視するキーワードが組み込まれています。自分のポジションは自分で掴みに行く。こうした全施策での共通コンセプトが、現在の風土を醸成したのだと思います。
――他社がAI人材育成を進める上での助言は?
岩月氏:やはり事業戦略との連携が不可欠です。戦略と人材育成がリンクしていれば、具体的な進め方は各社の風土に合わせてトップダウンでも昇格要件にしても良いと思います。当社は元々チャレンジングな人事制度だったので“手挙げ”させることが馴染んだのです。
――つまり、経営戦略と人事戦略の連携が根本にあるのですね。
岩月氏:はい。その上で「なぜこれをやるのか」というメッセージを、事業戦略への貢献という観点から、育成担当者が社員に伝えていくことが重要です。
――現在、その事業戦略の中心がAIということですね。
岩月氏:孫はAIに本気です。ADSL事業立ち上げ時のような、大きな変革の波が来ていると捉えており、会社として大きな勝負をしている状況です。ですから、文系・理系関係なく、全社員に一定のAIに関するリテラシーを持つことが求められているのです。
我々人事としてのミッションは、全社員の「底上げ」と「学びの習慣化」を促す最適な方法を探し、事業戦略と連動したメッセージを発信し続けること。それがインターナルブランディングにも繋がると考えています。